前回書いた、モネとルノワールが追及した「筆触分割」という技法についての続きです。
これは「色彩分割」や「視覚混合」などとも言われています。
これは、葉っぱを描くときに緑を塗るのではなく青と黄色を隣同士に塗って遠巻きに眺めることで眼が錯覚を起こして緑っぽく見える。というもの。
なぜこんなことをするかというと、基本的に絵具の色を混ぜると彩度が下がって色が濁って暗っぽく見えます。そうすると作品全体が暗めになってしまいます。
モネやルノワールはより自然の明るい光を表現するためにはどうするかを試行錯誤しました。そしてなるべく色を混ぜずに単色でキャンバスにそれぞれ色を乗せることで眼の錯覚を利用して、朝や昼の明るい光を表現しようとしたのです。
これまでのアカデミーの先生が教えるグラデーションで滑らかに描く方法と比べて、とても粗い描き方になりるが、色を混ぜないことで眼の錯覚により明るい画面になること、また、鮮明に描かなくとも人の脳はこれが葉っぱや人物などとちゃんと認識できること。これによってリアルな情景や人物の感じを表現したのです。
ちなみに、画像で絵を見るとわかりずらいですが、本物を遠くから見るとモネのこの作品も非常に雰囲気が出ていて全然見え方が変わります。(やっぱり絵は本物を見てほしい!)
こう見ると、実は印象派って感性一発で描いてるんじゃなくて結構理論的なんだなと思いますが、これは2人が初めてやり始めたというわけではなく、先人たちがいろいろとヒントを与えてくれてました。
まず、ミシェル=ウジェーヌ・シュヴルールという化学者が「色彩の同時対比の法則とこの法則に基づく配色について」という本を出しました。これは似たような色同士の調和や対比となる色の場合の調和などについての理論です。実はモネやルノワール、それ以降の画家たちは結構この理論をベースに絵を描いています。
そして、ウィリアム・ターナーの影響。
若きモネ、ピサロ、シスレーはイギリスに行って超大画家ターナーの作品を見ています。
この人は印象派より前の時代の人でお札にもなったイギリスの風景画家。どんなのを描いているかというと。
ウィリアム・ターナー『ノラム城・日の出』
これはどう見ても、モネが『印象・日の出』を描くのに参考にしてます。
さらに、ターナーはこんなこんなものまで描いてます。
ウィリアム・ターナー『雨、蒸気、そして速度-グレート・ウェスタン鉄道』
雨や蒸気などの物質どころかスピードまで絵にしちゃいました。
もうちょっと抽象画っぽい。
これを見るとだいぶぶっ飛んだ作品をターナーは描いてます。
フランスではモネが『印象・日の出』を描いて、「描きかけの壁紙よりも酷い」と酷評されたのに、その30年も前にイギリスでこんな絵が認められていました。
実はターナーもゲーテの色彩論に興味を持って絵の参考にしていました。(なんと詩人ゲーテは科学者の側面があったんです)
モネやピサロはターナーを研究していたようです。シスレーに至ってはほぼターナーみたいな作品も描いてます。
また、先輩画家ヨハン・ヨンキントやウジェーヌ・ブーダンも筆触分割的な風景画を描いており、特に若い頃のモネは直接2人から戸外制作をすることなどアドバイスをもらったりしています。
作品をみると明らかに印象派っぽい。
こうやってシュヴルールの理論やターナー、ヨンキント、ブーダンを参考に「筆触分割」を展開して明るい光を描くようになっていきます。
そして、時代は進み、「新印象主義」が登場します。