「ベアタ・ベアトリクス」ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ1864–1870
この絵のモデルはエリザベス・シッダルという人でロセッティの奥さんです。
この作品を解説するにはロセッティがどんな人物だったかを知る必要があります。
まずはロセッティについて。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティはラファエル前派
(正式名称:ラファエル前派兄弟団:the Pre-Raphaelite Brotherhood:P.R.B)
という美術サークルを立ち上げた画家です。
メンバーはロセッティ、ミレイ、ハント、ウイリアム・マイケル・ロセッティ(弟)、ウールナー、スティーヴァンス、コリンソンの7人。
ミレイは「オフィーリア」を描いたことで有名で、この絵とロセッティの絵を見比べるとわかる通り、めちゃくちゃ絵が上手いです。
「オフィーリア」についてはこちらで詳しく書いています。
https://hiro-ame.hatenablog.com/entry/2023/06/04/123510
ロセッティはラファエル前派の理念を伝えるスポークスマンでしゃべるのが上手いです。
詩も書きます。
(ちなみにロセッティの妹クリスティーナ・ロセッティは有名な詩人です)
ラファエル前派とは当時のイギリス美術アカデミーの教育に不満を抱いていた大学サークルのようなものの集まりです。
当時の美術教育はギリシャ・ローマ神話や聖書の題材をもとに人物や自然を理想化して美しく描きなさい。女神を美女でナイスバディで男神はイケメンで。背景も理想化した楽園のような感じで描きなさい。という風潮でした。
それを否定したしたのが美術評論家ジョン・ラスキンというとっても偉い人。
「理想化したものじゃなくてもっとありのままの自然を描いていこうよ」
この考えに共感したのがラファエル前派メンバー。
当時のアカデミーの理想的お手本画家はルネサンス時代のラファエルでした。
「ラファエル以降の絵はどんどんダメになってきたんだ。
だからラファエルより前の時代の芸術に戻ろう!」というのがラファエル前派の主張です。
例えば、ロセッティの初期の作品「Ecce Ancilla Domini!」(「見よ、主の侍女」)、または「受胎告知」
受胎告知という聖書の一場面です。天使がマリアが処女のままイエス・キリストを身籠ったということを伝えに来た場面です。
このテーマは過去に非常に多くの画家が描いており、描くルールもだいたい決まってます。聖母マリアが祈っているときに天使がユリをもって現れる、上のほうに神様がそれを示してる、全体的に荘厳な雰囲気などなど。
一例としてレオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」
こんな感じの絵が多いです。
しかし、ロセッティはマリアがベッドにいたときに天使が伝えに来た。
いかにも寝ているときにやってきた感じですね。
通常マリアは天使からの言葉に目を瞑っていたり、ありがたい、畏れ多いという感じの表情が多いですが、ロセッティのマリアは不安げ。
いかにも幼い女性のところに突然天使が現れて(それだけでも超びっくりですが)
「あなた身籠りました」なんて言われたら不安ですよね。
そんなふうに現実の世界で起こったらこんな感じじゃないかというふうに、理想化した絵ではなくもっとありのままの自然な感じで描こうと挑戦しています。
この絵は通常の描き方ではないので大変な批判も受けましたが賛同してくれる人もいました。
ジョン・ラスキンも賛同してくれて非常に支援してくれました。
そのうちにラファエル前派のミューズ(女神)となってくれたエリザベス・シッダル(通称リジー)も現れました。リジーはラファエル前派のモデルをしてくれました。
ミレイの「オフィーリア」のモデルもリジーです。
ミレイはこれを描くために、リジーにしばらくバスタブに浸かってもらったために肺炎になって、治療費を家族から請求されたなんて逸話もあります。
女神リジーを射止めたのはロセッティでした(ロセッティは詩が書けるくらいしゃべるのが上手いのでモテる)。二人は付き合います。
でも、このロセッティという人物はドン引きするくらいの残念なクズ男なのです!
長くなってしまったので続きはまた次回