hiro_ame’s blog

美術マニアで科学と宗教を学ぶのが大好きな絵描き。

ヴィクトリアン・フェアリー・ペインティング No.2

前回、妖精をテーマにしたいくつかの絵画について紹介しました。

 

ヴィクトリア女王時代の妖精絵画のことを「ヴィクトリアン・フェアリー・ペインティング」と言います。この時代にブームになったテーマで多くの画家が妖精を描いています。しかもイギリスだけ。ほかのヨーロッパ諸国では妖精はほとんど描かれていません。

 

なんでイギリスで大ブームが起きたんでしょう?

アーサー・ラッカム「夏の夜の夢」

 

理由① そもそもイギリス人は目に見えない妖精や幽霊が大好き

イギリスは妖精や幽霊などの超自然的なものが大好きなお国柄なんです。

日本では嫌がられる幽霊物件も実はイギリスでは逆に高値がつく物件になるくらいイギリスでは幽霊が大好き。さらにハリーポッター指輪物語が日本でも流行ったように妖精も魔法も大好き。

イギリスがもともとこういうお国柄ということも理由の一つです。

ここにはイギリスの土着の神話「ケルト神話」が源流にあります。

ケルト神話にでてくる「ダーナ神族」が妖精のもとになったといわれています。今でもイギリスの特に北方のほうなどでは妖精の民間伝承がとにかく多いです。

 

ジョン・ダンカン「妖精の騎手」ダーナ神族を描いた絵

 

理由②近代化の反動によるオカルトブーム

この19世紀は産業革命の発達によってさまざまなものが工業化し、蒸気機関車の発明、科学の発達、エネルギー革命などなど様々なものが近代化してイギリスがとても裕福になってきた時代でした。

その反動で、科学では解明できない妖精や幽霊・天使や悪魔など神話やファンタジーへの憧れなどから”オカルト”がブームが来ていました。

この時期に「黄金の夜明け団」という有名な魔術結社も設立されています。

 

理由③ロマン主義民族意識の発達

イギリスはフランスなどよりロマン主義絵画が早く生まれていたのです。

ロマン主義」とはこれまでの美術アカデミーで学んだ「新古典主義」とは相反する様式です。

新古典主義は簡単に言うと聖書やギリシャローマ神話を題材にした宗教画(歴史画)で、人物をリアルではなく理想的な美男美女に描くというもの。

それに対してロマン主義は「今、現実に起きていることを描こうよ」といって現実に起こった事件を描いたり、「俺たちはギリシャ・ローマ人じゃない。古典ならイギリス古典を描こうよ」という自国意識(民族意識)がこの時代に高まっており、「イギリスの古典といえばシェークスピアアーサー王伝説でしょ!」ということで、シェークスピアの妖精がメインの劇である「夏の夜の夢」と「嵐」を題材にした妖精、それがさらに発展してイギリスの妖精の民間伝承なども加わって妖精単独絵画がたくさん描かれたのです。

他のシェークスピア作品やアーサー王伝説を題材にした絵画もこの時代とても流行りました。過去に筆者が書いたジョン・エヴァレット・ミレイ「オフィーリア」もこの流れの中で生まれました。

イギリスロマン主義様式は前回説明したヘンリー・フュースリーやウィリアム・ブレイクが先駆けです。

この「絵画(歴史画)とは聖書やギリシャローマ神話を描くものですよ」と当たり前のように習っていたこの時代にとってこれは画期的でした。

イギリス含めヨーロッパ中で民族意識が高まった理由としてナポレオンの侵攻があったのですがそれについてはまたいつか。

 

カイ・ニールセン「白い国の姫君」この絵は日本の浮世絵の影響が見られます



 

ちなみに。妖精好きな人は「コティングリー妖精事件」というのを聞いたことがあるのではないでしょうか?

この事件がどんな事件なのか、なぜとても有名になったのか。とてもイギリスらしい面白い事件なので、絵画とはあまり関係ないですがとても興味深い事件のため次回はこれについて。

 

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