hiro_ame’s blog

美術マニアで科学と宗教を学ぶのが大好きな絵描き。

ウィリアム・モリスの偉大さ

女王グィネヴィア」もしくは「麗しのイズー」

from wikimediacommons



ウィリアム・モリスと親友のバーン=ジョーンズはラファエル前派第二期メンバーと言われた人です。

 

ラファエロ前派について詳しくは

ジョン・エヴァレット・ミレイやダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの回でも書きましたが

 

美術評論家ジョン・ラスキンの考えをもとに

「王立美術アカデミーで教えられるギリシャローマ神話や聖書の題材をもとに人物や自然を理想化して美しく描く方法じゃなくて、もっとありのままの自然を、他国の歴史ではなく自国(イギリス)の歴史や古典を描いていこうよ。」という主張で活動した芸術サークルです。



しかし、ラファエロ前派絶対的エースのミレイが敵側の王立美術アカデミーの会員になったことで事実上5年ほどで解散。

 

その後、ロセッティはまだ大学卒業したばかりの若いウィリアム・モリスやバーン=ジョーンズと出会い共に活動を再開します。これがラファエル前派第二期

ウィリアム・モリスやバーン=ジョーンズはもともとラファエル前派のフォロワーだったためロセッティを尊敬していました。

 

ラファエル前派というとミレイやロセッティが有名ですが、実は本主題のウィリアム・モリスの方が後世への影響が一番強い人なんです。

もしかしたら私たち日本人も知らず知らずのうちにモリス作品に触れているかもしれません。

 

モリスはオックスフォード大学で建築を勉強して、卒業後建築家ジョージ・エドマンド・ストリートのもとで見習いをしていました。でも途中で辞めてインテリア装飾や詩を書いて自費出版していました。

ロセッティと出会ってからは絵画を始めて、親友のバーン=ジョーンズとともにラファエル前派第二期として活動していました。そんな頃に出会ったのが、ロセッティの回でも出てきたジェーン・バーデン。ラファエル前派のミューズ(女神)として多くの作品のモデルをしてくれました。

 

その時の作品が本作。モリスは絵の才能がないと早々に油絵をあきらめているので、本作はモリスの数少ない油絵。

以前は「王妃グィネヴィア」と呼ばれていましたが、今は「麗しのイズー」

どちらもアーサー王伝説の登場人物です。

ラファエル前派はイギリスで結成されました。当時のアカデミー絵画の主流は聖書やギリシャ神話の話を題材にしたものがほとんどでしたが、「俺たちはイギリス人なんだからイギリスの古典シェークスピアアーサー王伝説を描こう」ということで特にアーサー王伝説を題材にした作品が多く残ってます。

グィネヴィアもイゾルデ(イズー)もどちらも不倫した女性のお話です。それをジェーンをモデルに描くというのは後の運命を予言するような作品になっちゃってます。

 

ジェーンに熱をあげたのはロセッティとモリスでした。

ジェーンはモリスを選びます。

というのもロセッティはまだなかなか絵が売れずお金がなかったけど、モリスは家が超金持ちのボンボン。

左からウィリアム・モリス、ジェーン、ロセッティ from wikimediacommons

モリスの父は投資でボロ儲けして大きな邸宅に住んでいたお坊ちゃん。しかも13歳の時に父が死んで、モリスは成人とともに莫大な資産、株や鉱山の権利などを相続 しており、働かなくても暮らしていけるほどだったのです。ジェーンは労働者階級の貧しい家の出身。ジェーンとしてはモリス一択だったのかも。

翌年に2人は結婚。

 

映画「マイ・フェア・レディ」を知っていますか?

オードリー・ヘプバーンが主演の映画。下町生まれの粗野な娘イライザがヒギンズ教授指導の下、言葉遣いから立ち振る舞いなどを猛勉強して上流階級の社交界に向かうというロマンス・コメディ。

この女性のモデルとなったのがジェーンなのです。

ジェーンは大金持ちのモリスと結婚したはいいけど、自分は労働者階級の貧しい娘なので、モリスと上流階級の社交界に出るために猛勉強。Queen's English、マナー、教養、立ち振舞、ダンス、フランス語、イタリア語など。ものすごいスピードで吸収していき、あまりの見事な化けっぷりが伝説になって作家 ヴァーノン・リー「ミス・ブラウン」が小説に、劇作家ジョージ・バーナード・ショーが戯曲「ピュグマリオン」にしました。この戯曲が「マイ・フェア・レディ」の原作となりました。

 

これをみるとジェーンはとんでもない野心家だったんだなとわかります。

残念ながらモリスへの愛のためではないです。なぜなら、ロセッティの回でもいいましたが、ジェーンとロセッティは結婚後も不倫関係にあったからです。

 

結婚後モリス夫妻はロンドン郊外に「レッド・ハウス」という家を建てます。

そこにラファエル前派メンバーが結婚おめでとう!と家具に絵を描いたり、ステンドグラス作ったりしてお祝いをしてました。ロセッティは家具に絵を描きました。

それがこんな絵

『Dantis Amor』 from wikimediacommons



食器棚に「ダンテの愛」という作品を描きました。ロセッティは父がダンテ・アリギエーリの研究者で息子にダンテと名づけたのもあり、ロセッティはダンテ・アリギエーリの生まれ変わりという設定。この作品はダンテと恋人のベアトリーチェの愛の詩「新生」がモチーフで男性がダンテ(ロセッティ)で女性のベアトリーチェが最初ジェーンで描かれており、さすがに仲間に「それはない」と言われて、ロセッティの奥さんのリジーに描きなおしたといういきさつがあります。

いけしゃあしゃあと自分と不倫相手の絵をその旦那に送ろうとする。

さすが極太神経ロセッティ。リジーもお祝いに来てたと思うのですが。。。



なんだかジェーンとロセッティの話ばかりになってしまいました。

次回こそはモリスの偉大さを書きます。