hiro_ame’s blog

美術マニアで科学と宗教を学ぶのが大好きな絵描き。

「ベアタ・ベアトリクス」作品から見るロセッティという人物 2

前回は、ロセッティとラファエル前派について書きました



今回は、ロセッティの私生活と「ベアタ・ベアトリクス」についてです

from wikimediacommons

 

ロセッティはラファエル前派のミューズ(女神)といわれモデルをしてくれたエリザベス・シッダル(通称リジー)と付き合います。

 

しかし、口がうまいロセッティはさっそくファニー・コンフォースという人と浮気します。

ロセッティのモデルも何度もやってます。

 

ジーは儚げでアンニュイな感じの女性に対して、ファニー・コンフォースは肉感的なふくよかな女性。

左がリジー(写真)右がフォニー・コンフォースをモデルにした絵「ボッカ・バチアータ」

 

さらに、ロセッティはジェーン・バーデンとも浮気します。

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ジェーンもまた2人とも違って美人で物憂げな感じがありつつ目に強さがあります。

 

当時、仕事が全然ないロセッティが、多大な支援をしてもらったジョン・ラスキンに仕事を紹介してもらってオックスフォード大学の大講堂の壁画の仕事を受けたときに出会ったのが、ジェーンです。

ジェーンにはその時の壁画作品のモデルをしてもらいました。(ロセッティはだいたいいつもモデルに手を出している)

ちなみにその時に、若き日のウィリアム・モリスエドワード・バーン=ジョーンズと出会っています。2人はラファエル前派のフォロワーだったのですが、すでにこの時ラファエル前派はミレイの裏切りによって解散。(詳しくはミレイの回を参照)

 

そのラファエル前派のリーダー的存在だったロセッティに憧れがあったのだと思います。

後にこの2人を入れて「ラファエル前派第二期」とも呼ばれるようになります。

特にウィリアム・モリスはラファエル前派の考えをベースにアーツ・アンド・クラフト運動を起こして、今なお多大な影響を及ぼしています。みなさんも知らず知らずのうちにモリス作品を見ているかも。

 

話を戻し。

 

ロセッティは「新たなミューズ」としてリジーがいながらジェーンと浮気しますが、ジェーンが選んだのはウィリアム・モリスでした。

なぜならモリスは親の遺産を受け継いでめちゃくちゃお金持ちのボンボンだったから。。。

目に強さのあるこの女性は、したたかで野心家でした。

なかなか人間関係がドロドロしてきました。

 

ジェーンはモリスとあっさり結婚。ロセッティは大ショック。

ついに年貢を納めてリジーと次の年に結婚します。

(なんとこの間、ずっとリジーとの同棲生活が続いていたそうです)

そして結婚後、それを記念して絵を描きます。

 

「レジーナ・コルディウム」

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ジーが持っている紫のパンジーの当時の花言葉は「愛の記憶」や「切ない思い出」など

どうみても結婚記念に描く花じゃない。。。。

もう終わった過去の恋愛に対しての言葉です。ロセッティなかなかのクズ具合。

絵の題名の「レジーナ・コルディウムRegina cordium」ラテン語で「心の女王」私の心の女王ですということなんでしょうが、どんな精神状態でこんな題名付けたのですか?と聞きたいくらいです。

 

もちろん、結婚後もジェーンとのダブル不倫は続きます。

 

ロセッティの度重なる浮気でリジーは結婚前からかなり精神を病んでいました。

そして、流産したことがきっかけで遂に精神崩壊。

アヘンチンキのオーバードーズで亡くなってしまいました。

 

さすがのロセッティも罪悪感からなのか大変心を痛めました。

そして追悼のための詩を書きました。

その詩を「君のためにこれを封印する」と言って棺の中に詩を入れたそうです。

 

さらに追悼作品として本作「ベアタ・ベアトリクス」を描きました。

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ベアトリクス(イタリア読みではベアトリーチェ)とはイタリアの古代の詩人ダンテ・アリギエーリの「新生」に登場する人物で、詩人ダンテが恋した相手です。

有名なダンテの「神曲」にもベアトリーチェは登場します。

ベアタ・ベアトリクスとは「福者ベアトリクス」という意味で、福者とは死後その徳と聖性を認められた者の称号です。

 

当時のキリスト教は自殺はNGのため、自殺者は埋葬してもらえませんでした。

そのためリジーの自殺を隠して、このような題名にしたのかもしれませんね。

 

有名な「神曲」はダンテが師ウェルギリウスとともに地獄・煉獄・天国を見て回るという話で、ベアトリクスベアトリーチェ)は後半で登場して、ダンテを天国へと導いてくれます。

ロセッティは父がダンテの研究家でそのため息子にダンテ・ゲイブリエル・ロセッティと名づけました。

ロセッティ本人も自分はダンテの生まれ変わりだと思っていた(?)ようで、そのためリジーベアトリーチェと重ねて本作を描きました。

 

本作の花はケシの花で死と安息の象徴(ケシの花はアヘンチンキの原料)。

ハトは愛と平和の象徴。

日時計は永遠の象徴とも死亡時刻とも言われており、詳しくはよくわかっていません。

 

今回はまごうことなき追悼作品です。



ここでアンハッピーエンドで終わってくれるとなんとなく報われる?気がするのですが、クズロセッティは終わらせてくれません。



その後のロセッティについて、ロセッティの他の代表作とともにまた次回