ヤン・ファン・エイク『ヘントの祭壇画』
ヤン・ファン・エイクは西洋美術史上非常に重要な初期ネーデルランド(初期フランドル)の画家です。
そしてかなり古い画家です。
1359年頃生まれと言われているのでレオナルド・ダ・ヴィンチの50年以上も前
よくこの人が油絵を発明したと言われますが、厳密には油絵はもう少し前から発明されており、油絵の技術を格段に進展させた人物です。
この人が確立した技術がイタリアに行って初期ルネサンスのマサッチョやその後のレオナルド・ダ・ヴィンチやラファエロの代へと引き継がれていくのです。
初期フランドル絵画は北方ルネサンス(イタリアより北)とも言われ、この北方ルネサンスの特徴は細密描写です。
手前も遠くもどこもかしこもしっかりと描かれており、どこに目を向けてもピントがしっかりと合っているのです。
例えば、ファン・エイクより後の時代のレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』は空気遠近法という技法を使っています。
人物に目を向けると(ピントを合わせると)遠くの景色はピントが合わず、輪郭がはっきり見えずボヤっとしてる。さらに遠くのほうの空は青みがかっている。
人間の目にはそう見えているので、そういう描き方をしています。
ダ・ヴィンチさんさすがです。
でも、初期フランドル絵画はどこに目を向けても輪郭がビシッと分かり、全部にピントが合っている。この描き方を「細密描写」といいます。つまり超超リアルに描いてるということ。
ヤン・ファン・エイクはその細密描写が抜群の人です。初期フランドルの画家というと必ずこの人が代表画家として出てきます。
ヤン・ファン・エイクの自画像と言われている絵
この絵の額には座右の銘が書かれていたそうで、そこには、英語訳「As I Can」(出来る限りやる)
この通り、この人は出来る限りやるとこまでやっちゃったんです。どこもかしこも出来る限り超リアルにやっちゃいました。自画像の表情も頑固一徹で強い意志を感じます。
その、とことんやっちゃった集大成が本作『ヘントの祭壇画』
初期フランドル絵画の最高傑作
死ぬまでに見たい西洋美術史の超重要作品
ナポレオンもヒトラーも欲しくて欲しくてしょうがなかったお宝なのです。
本作は「多翼祭壇画」といい左右4つのパネルが翼の部分で、中央は上段と下段に分かれてます。ヒエロニムス・ボス『快楽の園』の回で書いたように、閉じるとその閉じた外側にも絵が描かれています。
大きさは縦3.4m横4.6m
それぞれテーマが分かれており
閉じた状態:「キリストの誕生」
開いた状態:上段一番両端:「人間の受難」 その隣の両端:「讃美歌の天使たち」
上段中央 :左から「聖母マリア」「キリスト又は神」「洗礼者ヨハネ」
下段両端の4パート:
左から「正しき裁き人」「キリストの騎士」「隠修士」「巡礼者」
下段中央:「神秘の子羊の礼拝」
まず、閉じた状態「キリスト誕生」パートから
一番上段の4人
左から「預言者ゼカリヤ」「クマエのシビュラ(巫女)」「エリュトライのシビュラ」「預言者ミカ」 この4人は救世主が生まれることを預言した人たち。(クマエとエリュトライとは地名のこと)
中央の絵は「受胎告知」シーン
たくさんの画家が描いている超有名シーン
天使ガブリエルがマリア様のところにきて、
天使「おめでとう。あなた神の子を身籠ってますよ~」百合の花(処女の象徴)持ってお祝い
マリア「マジっすか!まだ結婚もしてませんけど!?」
マリア様頭に鳥を乗せてるわけじゃなくてこれは聖霊。神様の意志がそこにあることを示してます。
マリア様本読んでる最中にガブリエルが来たんですね。
最後に下段
両脇の人物はスポンサー夫妻。この二人がヤン・ファン・エイクに依頼して描いてもらい教会に収めた。町一番のお金持ち。
その2人がいっぱい祈って現れた幻影が
この作品は聖ヨハネ教会に捧げられたものなので守護聖人として描かれています。
ここまでが閉じている時の絵です
初期フランドル絵画の特徴、「圧倒的情報量」
もうこれだけでもうなかなかの情報量です(汗)
パネル1枚分だけで十分作品として成り立ちそうです。
次回はメインの開いた状態を見ていきます!