hiro_ame’s blog

美術マニアで科学と宗教を学ぶのが大好きな絵描き。

オモシロ絵画 in ネーデルランド ブリューゲル『ネーデルランドの諺』

ピーテル・ブリューゲル(父)『ネーデルランドの諺』

from wikimediacommons

 

筆者が初めてネーデルランド絵画に触れた思い出深い作品

一見?とある村のとある日常という感じですが。よくよく見るといろんなところがおかしい変な絵

 

この絵は一体何を描いているのかというと、題名のそのまま。

ネーデルランドのことわざを1枚の絵に表した作品なんです!

こんなことをしている作品を筆者は初めてみました。

 

しかもここに描かれていることわざは、なんとわかっているだけで126個!

数えるだけで大変!

 

オランダのことわざなので日本人にはよくわからないものもありますが

いくつかピックアップして見ていきます。

 

まずは日本と共通するものから

 

「野生の熊は同類と共にいるのを好む」

  類は友を呼ぶ 小熊かな?

「豚の前にバラ(真珠)を投げてはならない」

  豚に真珠

「自分の粥をぶちまけた者は全てを元には集められない」

  覆水盆に返らず

「非常時は老女さえ走らせる」

  思いがけない状況では、驚くべき力が発揮されることがある 火事場の馬鹿力

  おばあちゃん激走



 

それ以外にも

「彼女は夫に青い外套を着せる」

  彼女は夫に不貞を働いている

「彼は親指の上で世界を回している」

  人を意のままに操る

「さらし台の上で演奏する」

  間違っているのに気付かず、まだ人の注意を引こうとする ノリノリ♪

「悪魔の元へ懺悔に行く」

  敵に秘密を漏らす 悪魔に魂を売るかな? これ悪魔なんだろうか?

「ガチョウがなぜ裸足で歩くのかを誰が知っていようか?」

  一見してすぐに明らかでないとしても、物事には必ずその理由がある

「屋根がパンケーキで覆われている」

  豊かな生活を送る 雨漏りしそうですが...

 

 

などなど

 

自宅やお店に飾って家族やお客さんとちょっとお話するのにちょうど面白い絵なんじゃないでしょうか?

この絵、人気があったみたいで何枚もセルフコピーされてます。

人気だったのもわかる気がします。

 

ブリューゲルの代表作はいっぱいあります

バベルの塔』をはじめ『反逆天使の墜落』『雪中の狩人』などなど

バベルの塔』 from wikimediacommons

『反逆天使の墜落』 from wikimediacommons

『雪中の狩人』 from wikimediacommons



この人はヒエロニムス・ボスに非常に影響を受けており「第2のボス」として売り出した人なので、ボス同様なんの生物かもわからない謎生物とごちゃごちゃ世界の作品がメインです。

ボスの後追いと言われているにも係らず、しっかりと歴史に名を残しているのはボスを踏襲しながらもブリューゲルの確かな画力と絵の存在感が素晴らしいからだと思います。

筆者はブリューゲル大好きで、この人も激押し画家です。

 

どの絵もかなりのごちゃごちゃです!端から端まで全く手を抜かずとことんまで描きつくしています!見ごたえ抜群!

 

今回取り上げなかったですが『バベルの塔』はその集大成。

聖書の一説を絵にした『バベルの塔』は一見すると存在感抜群の塔ですが、描かれているのは塔だけじゃない!米粒よりも小さい人間がこの絵には大量に描かれています!これは実物を虫眼鏡で見ないとわからないレベル!

 

どの絵もカオスなのに、しっかり構成されて、そしてどの部分も見ごたえがある。

ブリューゲルは本当にすごいくて面白いです。

オモシロ絵画 in ネーデルランド ボス『快楽の園』2

ヒエロニムス・ボス『快楽の園』

 

この謎絵画

なにが描かれているかというと

閉じた時:旧約聖書天地創造の図

開いた時:

 左側:アダムとイブ

 中央:題名にもなってる人間の快楽?

 右側:地獄

 

前回は閉じた時と左側を書いたので今回は中央と右側について!

 

前回のお話はこちら↓

 

 

中央をちょっと飛ばして先に左側。地獄パートから。

 

ここは左側より更にカオス。もうどこからツッコんでいいのか。。というレベル

 

とりあえず右下あたりにいる青いのが地獄にいる悪魔の王様ルシフェルらしい。

そう。なんとこの青い未確認生物?が悪魔なんです。つぶらな瞳の鳥?人間。じゃなかった。鳥悪魔かな?筆者はカエルっぽくも見えます。

地獄に落ちた人間を丸のみしてて怖そうかと思いきやお尻から人間出てきてる。

悪魔の王様胎内巡り。

ちょっと面白そうかも。

怪我もなく無事に出てきてるし。落ちた先は肥溜め??それは地獄だわ。でも一般的に想像する地獄の怖さとちょっとジャンル違うような。。

 

確かによく見ると剣で刺されたりして本筋の怖さもあり、人間もおびえているんだけど、全体的に血が出てないからあんまり残虐性を感じません。

 

そしてここでもちょいちょい「なにこれ?」がある

一番目を引くのが中央の白い物体。「樹木人間」と呼ばれてます。この人間の顔がボスの自画像とも言われてます。

そのちょっと左上にあるのが「耳戦車」包丁っぽいのが突き出てる?

よく見ると「樹木人間」の体?の中の空洞でみんなでご飯食べてる。飲み会してます?

樹木人間の2本の足は船で移動してるけどこれは川?湖?でもスケートしてる人いるから水凍ってるとすると、どうやって移動してるんだろう。

あと、なぜか拷問器具が楽器。痛いのかな?

そしてこちらも謎生物のオンパレード。一つ一つ丁寧に見ていくとやっぱり何の動物かわかりません!

このヒエロニムス・ボスの想像力の面白さといったら。

こんなお化け屋敷あったらツッコミどころ満載で面白いかも。

 

最後に中央

これが一番謎なんです。。



人間の悦楽の世界っぽいんですが、、見れば見るほどみんな何やってるんだろうか。。

もうどこから突っ込んでいいのか。。奥には相変わらずのメルヘンヘンテコ建築

中央はパレード?なぜかみんなぐるぐる回ってる。

そして全体を通してかなりのごちゃごちゃっぷり!どこら辺が悦楽かもよくわからない状況。。

一応、ムール貝に挟まってる男性とか動物に乗ってる人とか性的な象徴とも言われていますが。

それにしたって。。

いまだにこの中央部分がどんな意図で描かれているのか、なぜこうなったのか多くの研究者がこの謎に挑んでますがまだ明確にはわかってないそうです。

 

一般的な三連祭壇画は

左側:歴史、神話の世界(過去)

中央:この世の出来事(現在)

右側:地獄や最後の審判など(未来)

 

という感じで、『快楽の園』もなんとなくそうなってはいるんですが、中央はこの世の出来事??

裸祭りですが。。むしろこっちが楽園っぽい。

これが聖堂や修道院に飾られてたことを考えると、気になりすぎて静かにお祈りできないかも。



このように謎だらけの絵画なんです。

まだまだツッコミどころがたくさんで、わけわかんないけどオモシロイ!

全体画像をアップで見てみてください

新たな発見があるかもしれません!

オモシロ絵画 in ネーデルランド ボス『快楽の園』

ヒエロニムス・ボス『快楽の園』

from wikimediacommons



初期フランドル絵画の特徴のひとつは「超細密描写と膨大な情報量によるごちゃごちゃ感」

だから画像で見ると小さすぎて何が描かれてるのかよくわかりません。

そのため部分部分をいくつか取り上げていきます

 

筆者激押し絵画『快楽の園』はオモシロ絵画であるとともに謎絵画です。

なんでこうなった。。。どうしてこうなっちゃった??ツッコミどころ満載でいまだによくわかりません。

 

この絵は「三連祭壇画」といって3翼に分れた祭壇画(キリスト教の教会におかれるお寺のご本尊みたいな絵)で両翼がパタンと中央に閉じることができて、その両翼の外側にも絵が描かれてます。

そして観音開きのように開くとメインの絵が出てくるという仕掛けです。

 

なにが描かれているかというと

閉じた時:旧約聖書天地創造の図 ↓

from wikimediacommons

開いた時:

 左側:アダムとイブ

 中央:題名にもなってる人間の快楽?

 右側:地獄

 

そのため絵画の流れとしては、

 

 神様が地球?を天地創造して大地や海や植物が作られる

→神様が人間アダムとイブを作る

→その人間が増えて堕落に落ちて快楽を求める

→そうすると地獄に落ちますよ

 

という感じ。

こうみるとなんとなくわかりやすい教訓的な絵ですが

その中身が変すぎる!

 

まず、開いた時の左側から

 

中央下あたりに神様とアダムとイブっぽい人がいて、ここが地上の楽園エデンだとわかる。下に動物なんかもいて植物に果物もなってる。(さりげなく悪魔の化身の蛇も中央右端の木に巻き付いてる)

楽園だよね?3人の顔が超無感情で無表情なんだけど。。

 

まあ、とりあえずそれは置いとくとしても

中央に鎮座している湖のところに建ってる建物はなんぞや?

しかもえらいメルヘン?な独特な建物。こんなの現代建築でも見たことありませんが。。公園のお遊戯感があります。何気に中央の丸いところにフクロウっぽいのがいる。。。何故?

よく見ると水っぽいものが流れているので巨大な噴水かも。噴水の記述なんて旧約聖書になかった気もしますが。。ヒエロニムス・ボスのサービスかな?

上部の背景になってる山なんだか建物なんだかもだいぶツッコミどころ満載ですが。。。

 

動物もよく見てみてください。こんな動物実在してますっけ?というのがちらほら。

ユニコーンいるし、翼のある魚?いるし、カエル食べてるやつ何者?これに至ってはもう何の動物かも推測不能。。エデンだからなんでもOKなのかな?

これらに挙げた動物たちがどこにいるのか全体画像で探してみてください。

 

長くなってしまったので。

続きは次回。

オモシロ絵画 in ネーデルランド

ネーデルランドとはオランダのことです。

”Nederland”というのがオランダの正式な国名です。

オランダという言葉はホラント州(Holland)からきた言葉で日本独自に使われている名前なので、実は他の国では通じません。

 

ネーデルランド絵画というとオランダとお隣のベルギー、フランス北部あたりの絵画のことを指します。

オランダという国自体が日本ではメジャーな観光地でないのでオランダ絵画というと美術大好きな人でないとなかなか難しいかもしれません。

 

日本で一番知られている画家はやっぱり「フェルメール」じゃないでしょうか。

(むしろフェルメールがオランダ人ということを知っている人のほうが少ないかもしれませんが)

ヨハネス・フェルメール『牛乳を注ぐ女』from wikimediacommons

 

ちなみに、面白いことにこれだけフェルメールは日本で有名なのに、当のオランダやヨーロッパでは日本ほど有名ではないです。フェルメールがオランダで知名度が上がったのはほんのつい最近のことでフェルメール人気は意外と日が浅いのです。



じゃあ、オランダ人にとって昔から愛されてるメジャーな画家はというと

なんといってもレンブラントルーベンス

フランスを代表する絵画が『モナ・リザ』(?) だとしたらオランダを代表する絵画は間違いなくレンブラントの『夜警』です。

レンブラント・ファン・レイン『夜警』 from wikimediacommons

 

 

(蛇足ですが日本の代表絵画といったら葛飾北斎の『神奈川沖浪裏』か『凱風快晴』ですかね?みなさんはどう思います?)

ほかにオランダの画家というとフランス・ハルス、ファン・ダイク、ヤコブ・ファン・ロイスダール、ピーテル・デ・ホーホ

もっと古い人だと、巨匠ヤン・ファン・エイク、ヒエロニムス・ボス、ピーテル・ブリューゲル...etc

 

知っている人はいましたか?



まず、オランダ美術の歴史の流れから行くと(ものすごく大雑把に)

 

①初期フランドル(北方ルネサンス) 1400~1500年代

バロック 1600年~1700年代

③オランダ黄金時代 1600年代(厳密にはバロックに分類されます)

・・・と続きます。日本でも有名な絵画はこのあたりに集中しています。美術の教科書でもちらちらでてきてます。

 

①初期フランドルの有名画家がヤン・ファン・エイク、ヒエロニムス・ボス、ピーテル・ブリューゲル

②③がレンブラントルーベンスフェルメール、フランス・ハルス、ファン・ダイク、ロイスダール、ピーテル・デ・ホーホなど

 

上に挙げた人は全員大巨匠でそれぞれにオモシロ絵画があるのですが

筆者が特に面白くてユニークな激押しな「初期フランドル絵画」について見ていきます。

 

ちなみにフランドルとはオランダ南部、ベルギーあたりの地域のことです。

英語読みでフランダース

フランダースの犬」の舞台でもありこの作品の中に出てくる絵画として有名なのがバロック時代のルーベンスの『キリスト降架』

ルーベンス『キリスト降架』 from wikimediacommons

 

フランダースの犬」といったらルーベンスとセットでよく出てきます。

最近筆者も知りましたが「フランダースの犬」って日本で超有名ですが本場オランダ・ベルギーでは全然マイナー小説みたいです。これも意外。

 

話を戻して

オランダという国は絵画においても非常に独特な歴史と文化を持っており、ほかのヨーロッパの国とは絵画ジャンルも絵画技法も独自発達したものがたくさんあります。

その中でも初期フランドルの画家の絵は美術に詳しくない人が見てもオモシロくて超独特。

 

一番の特徴はやっぱりスーパー細密描写!

とにかく細かい!超リアル!虫眼鏡見ながら描いたの?というくらい細かいです。米粒大の人物でもデフォルメせずにリアルに描かれてます。

そして、それだけ細かいのに画面びっしりに何かが描かれててとにかくごちゃごちゃ!

情報量がめちゃくちゃ多くてちゃんと見ようとすると1枚の絵画だけでもえらい時間がかかります。

とにかく面白いです!



次回からその初期フランドルのオモシロ絵画をひとつずつみていきます。

ウィリアム・モリスの偉大さ2

ウィリアム・モリス「イチゴ泥棒」

from wikimediacommons

 

ウィリアム・モリスは「アーツ・アンド・クラフト運動」を扇動して、「モダンデザインの父」と言われました。

モリスは先輩ロセッティの勧めもあって最初は画家として油絵を描いていましたが、才能が無いと早々にあきらめ、デザインでやっていく決意の下「モリス商会」を設立しました。

そこで、主にステンドグラスや壁紙、家具などインテリアのデザインを始めます。

「アーツ・アンド・クラフト運動」とは芸術(アート)と工芸(クラフト)の融合です。

こう書くと難しく聞こえるかもしれませんが、つまりはオシャレ家具やオシャレ雑貨のデザインです。

当時のイギリスは産業革命全盛期で工場によって商品が安価で大量生産された時代。

オシャレとは無縁の誰でもに受け入れられるデザインばかり。

モリスはもともと中世や昔のものが大好きで、機械化される前の中世の職人たちの手仕事に立ち返り、生活と芸術を一体化させようという主張のもとモリス商会で活動を始めました。

 

これは今でもありますね。工場で薄利多売を売りにしている会社から個人でデザイン性の高いものを販売している人まで。

 

このオシャレ家具や雑貨を復興させたのがウィリアム・モリスなのです。20世紀以降のモダンデザインの考え方のルーツはここなのです。

今でもインテリアコーディネーターの試験でモリスが出題されるそうですよ。

日本では柳宗悦がこの「アーツ・アンド・クラフト運動」に共感して、日本の日用品の中に美を見出すという「民藝運動」を始めます。地方でよく見る民藝品のことです。「民藝」という言葉もこの人の造語だったそうです。

 

「イチゴ泥棒」はどこかでみたことがあるデザインではないでしょうか?これはモリスがデザインした壁紙です。可愛い小鳥がイチゴを狙っています。他にもモリスデザインの壁紙は有名で、いまでもよく見ます。

 

こんな感じで仕事はバリバリですが、私生活はというと。。。

モリスと奥さんのジェーンの新居「レッド・ハウス」はロンドンのモリス商会から遠かったため、ロンドン市内に引っ越します。

そのためロセッティとジェーンは更に会いやすくなり不倫継続。ロンドンの社交界でもどんどん噂になっていきます。

これはマズいと思い、モリスはコッツウォルズ地方にロセッティと共同で(ほとんどモリスがお金出して)邸宅を借ります。「ロセッティ先輩、逢瀬はここでやってください、僕は夏の間は(昔から興味のある)アイスランド神話の研究のため、アイスランドに旅行に行くので」とロセッティに直には言ってないでしょうが、邸宅を借りたのは噂を沈静化するこんな意味合いがあったようです。

ロセッティは尊敬する先輩で師匠なのでなかなか言えなかったのか。。

 

ロセッティはこの時期「プロセルピナ」を描きます。

詳しい経緯は以下のブログにあります

hiro-ame.hatenablog.com




ジェーンは裕福な生活を送り、ここまでしてくれたモリスに対してどう思っていたのか。

「モリスのことを男として愛したことは一度もないわ」と言っていたそうです。

かといってロセッティのことを愛していたのかはまた何とも言えず。。。

モリスからするとなんともやりきれない。。。

 

しかし、仕事はバリバリ。

モリスはさらに「ケルムスコット・プレス」という出版社を設立します。

モリスは詩人としてもロンドンでも有名で、物語も書いていました。

ここでも「アーツ・アンド・クラフト運動」の考えがあります。

モリスが文を書いて挿絵を親友で画家のバーン=ジョーンズが描き、文字も独自にデザイン装飾したものを作りました。紙やインクや印刷にもこだわりました。

晩年のモリス(右)とバーン=ジョーンズ(左)from wikimediacommons

そうして芸術性も非常に高い本を出版しました。非常にコストがかかっているため富裕層しか買えなかったそうです。

本好きの筆者としては当時の実物を見てみたいなぁと夢見ています。

小説「The Wood Beyond the World」装飾デザインがモリス、挿絵がバーン=ジョーンズ とても豪華です from wikimediacommons

 

このようにモリスの後世への影響は絶大です。当時からモリスは非常に影響力のある文化人として有名だったそうです。

筆者は先日100円均一のお店でもモリスのデザイン雑貨を見ました。今でも色褪せないオシャレデザイン。あなたもモリス作品に気づかずに触れているかも。

ウィリアム・モリスの偉大さ

女王グィネヴィア」もしくは「麗しのイズー」

from wikimediacommons



ウィリアム・モリスと親友のバーン=ジョーンズはラファエル前派第二期メンバーと言われた人です。

 

ラファエロ前派について詳しくは

ジョン・エヴァレット・ミレイやダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの回でも書きましたが

 

美術評論家ジョン・ラスキンの考えをもとに

「王立美術アカデミーで教えられるギリシャローマ神話や聖書の題材をもとに人物や自然を理想化して美しく描く方法じゃなくて、もっとありのままの自然を、他国の歴史ではなく自国(イギリス)の歴史や古典を描いていこうよ。」という主張で活動した芸術サークルです。



しかし、ラファエロ前派絶対的エースのミレイが敵側の王立美術アカデミーの会員になったことで事実上5年ほどで解散。

 

その後、ロセッティはまだ大学卒業したばかりの若いウィリアム・モリスやバーン=ジョーンズと出会い共に活動を再開します。これがラファエル前派第二期

ウィリアム・モリスやバーン=ジョーンズはもともとラファエル前派のフォロワーだったためロセッティを尊敬していました。

 

ラファエル前派というとミレイやロセッティが有名ですが、実は本主題のウィリアム・モリスの方が後世への影響が一番強い人なんです。

もしかしたら私たち日本人も知らず知らずのうちにモリス作品に触れているかもしれません。

 

モリスはオックスフォード大学で建築を勉強して、卒業後建築家ジョージ・エドマンド・ストリートのもとで見習いをしていました。でも途中で辞めてインテリア装飾や詩を書いて自費出版していました。

ロセッティと出会ってからは絵画を始めて、親友のバーン=ジョーンズとともにラファエル前派第二期として活動していました。そんな頃に出会ったのが、ロセッティの回でも出てきたジェーン・バーデン。ラファエル前派のミューズ(女神)として多くの作品のモデルをしてくれました。

 

その時の作品が本作。モリスは絵の才能がないと早々に油絵をあきらめているので、本作はモリスの数少ない油絵。

以前は「王妃グィネヴィア」と呼ばれていましたが、今は「麗しのイズー」

どちらもアーサー王伝説の登場人物です。

ラファエル前派はイギリスで結成されました。当時のアカデミー絵画の主流は聖書やギリシャ神話の話を題材にしたものがほとんどでしたが、「俺たちはイギリス人なんだからイギリスの古典シェークスピアアーサー王伝説を描こう」ということで特にアーサー王伝説を題材にした作品が多く残ってます。

グィネヴィアもイゾルデ(イズー)もどちらも不倫した女性のお話です。それをジェーンをモデルに描くというのは後の運命を予言するような作品になっちゃってます。

 

ジェーンに熱をあげたのはロセッティとモリスでした。

ジェーンはモリスを選びます。

というのもロセッティはまだなかなか絵が売れずお金がなかったけど、モリスは家が超金持ちのボンボン。

左からウィリアム・モリス、ジェーン、ロセッティ from wikimediacommons

モリスの父は投資でボロ儲けして大きな邸宅に住んでいたお坊ちゃん。しかも13歳の時に父が死んで、モリスは成人とともに莫大な資産、株や鉱山の権利などを相続 しており、働かなくても暮らしていけるほどだったのです。ジェーンは労働者階級の貧しい家の出身。ジェーンとしてはモリス一択だったのかも。

翌年に2人は結婚。

 

映画「マイ・フェア・レディ」を知っていますか?

オードリー・ヘプバーンが主演の映画。下町生まれの粗野な娘イライザがヒギンズ教授指導の下、言葉遣いから立ち振る舞いなどを猛勉強して上流階級の社交界に向かうというロマンス・コメディ。

この女性のモデルとなったのがジェーンなのです。

ジェーンは大金持ちのモリスと結婚したはいいけど、自分は労働者階級の貧しい娘なので、モリスと上流階級の社交界に出るために猛勉強。Queen's English、マナー、教養、立ち振舞、ダンス、フランス語、イタリア語など。ものすごいスピードで吸収していき、あまりの見事な化けっぷりが伝説になって作家 ヴァーノン・リー「ミス・ブラウン」が小説に、劇作家ジョージ・バーナード・ショーが戯曲「ピュグマリオン」にしました。この戯曲が「マイ・フェア・レディ」の原作となりました。

 

これをみるとジェーンはとんでもない野心家だったんだなとわかります。

残念ながらモリスへの愛のためではないです。なぜなら、ロセッティの回でもいいましたが、ジェーンとロセッティは結婚後も不倫関係にあったからです。

 

結婚後モリス夫妻はロンドン郊外に「レッド・ハウス」という家を建てます。

そこにラファエル前派メンバーが結婚おめでとう!と家具に絵を描いたり、ステンドグラス作ったりしてお祝いをしてました。ロセッティは家具に絵を描きました。

それがこんな絵

『Dantis Amor』 from wikimediacommons



食器棚に「ダンテの愛」という作品を描きました。ロセッティは父がダンテ・アリギエーリの研究者で息子にダンテと名づけたのもあり、ロセッティはダンテ・アリギエーリの生まれ変わりという設定。この作品はダンテと恋人のベアトリーチェの愛の詩「新生」がモチーフで男性がダンテ(ロセッティ)で女性のベアトリーチェが最初ジェーンで描かれており、さすがに仲間に「それはない」と言われて、ロセッティの奥さんのリジーに描きなおしたといういきさつがあります。

いけしゃあしゃあと自分と不倫相手の絵をその旦那に送ろうとする。

さすが極太神経ロセッティ。リジーもお祝いに来てたと思うのですが。。。



なんだかジェーンとロセッティの話ばかりになってしまいました。

次回こそはモリスの偉大さを書きます。

「プロセルピナ」作品から見るロセッティという人物 3

ロセッティの第三回目です。

 

ロセッティの代表作としてこの作品もよく見かけます。

 

「プロセルピナ」

from wikimediacommons

 

私はこの作品の真の意味を知ったとき、かなりドン引きしました。。。

ロセッティ from wikimediacommons

 

と、その前に、話はロセッティの奥さんエリザベス・シッダル(通称リジー)が亡くなって、その追悼作品「ベアタ・ベアトリクス」を描いていたころです。

エリザベス・シッダル(通称リジー) from wikimediacommons

あんなにリジーの死に心を痛めて、追悼作品を描き、また、リジーのために詩を書き、それを棺とともに埋葬までしておいて。

ロセッティは亡くなって1年もしないうちに女遊びを再開。

他の人と結婚していた元浮気相手ファニー・コンフォースと関係を再開。

さらに、ウィリアム・モリスの奥さんでこちらも元浮気相手のジェーン・モリス(旧姓ジェーン・バーデン)にも執着していました。

ジェーン・モリス from wikimediacommons

 

そして、なんと、リジーとともに埋葬した詩を、「そういえばあれ、結構傑作だったから埋めたのもったいなかったな。」といって、なんと、友人にリジーの墓を掘り起こさせて、埋葬した詩を持ってこさせた!自分で掘り起こせよ!もう一回書けよ!

そしてその詩を出版。。。

と同時に「ベアタ・ベアトリクス」も完成。リジーの死から7,8年後のことでした。(「ベアタ・ベアトリクス」制作時間かかりすぎじゃない?とは筆者の感想)

from wikimediacommons

つまりこの追悼作品描きながらあっさり女遊び再開しているわけで、もうどんな神経しているのかと疑問に思わざるを得ません。

 

「ベアタ・ベアトリクス」は世間からかなり好評価でロセッティの最高傑作といわれています。

セルフコピーの作品も何作品か描いています。



女遊びの激しいロセッティはモリスの奥さんであるジェーンに特に執着していました。

このジェーンもなかなかの人で、「モリスはお金を持っていたから結婚しただけであって、彼を一度も愛したことはなかったわ!」と言っており、ロセッティと堂々と浮気をしていました。

 

ウィリアム・モリス from wikimediacommons

ジェーンの夫のモリスは尊敬するロセッティ先輩に強くは言えず。。。

また、モリスとジェーンの新居はモリスの仕事場所から遠いという理由でロンドン市内に引っ越しました。そのためロンドンにいたロセッティと浮気しやすくなっちゃう始末。

ロンドンの貴族社交界でどんどん噂になります。

苦心の末、モリスはロセッティと共同で(ほとんどモリスが支払った)コッツウォルズ地方に家を借ります。ロンドンだと噂になっちゃうから。。。

そして、このころからモリスはアイスランドに興味を持ち、夏の間は一人で旅行に行ってしまいます。

つまり、夏はコッツウォルズでロセッティと冬はロンドンでモリスと生活。

 

こんな生活の中で本作「プロセルピナ」は生まれました。

 

プロセルピナとはローマ神話に登場する春の女神、ギリシャ神話でいうペルセポネ

この神話は、冥界の神プルートーにプロセルピナが懸想されてプルートーはプロセルピナを急に誘拐!無理やり奥さんにしてしまいます。

プロセルピナの母の豊穣の女神ケレースが方々を探しますが見つからず憔悴。

やっと見つかったと思ったら、プロセルピナは冥界の食べ物ザクロを半分食べてしまったため地上に戻ることができません。

そこでプロセルピナは半分は地上で、半分は冥界で過ごすことでプルートーと合意します。

ケレースは豊穣の女神。

プロセルピナが地上に戻るとケレースが喜び春がやってきて作物が実ります。プロセルピナが冥界へ行くとケレースは悲しみ冬がやってきます。

これが、四季の起源と言われ、多くの画家がこの話を描いています。

 

つまり、夏(春)になるとジェーン(プロセルピナ)が戻ってきてロセッティと過ごす。冬になるとジェーン(プロセルピナ)はモリスと過ごす。

本作はそれを象徴した絵なんです。

 

なんともまあよくできた話だ。

 

本作のプロセルピナも悲しそうな難しい顔でザクロを食べています。

少しわかりづらいですが右上に文字が書かれています。そこにはロセッティの詩が書かれており

「可哀想なプロセルピナ」とあります。

お金で縛られているジェーンのことを不幸だ不幸だと言っています。

 

よくこれを絵にしたものだと。呆れるというか。

ジェーンのことがよほど好きだったのか。

この作品も人気でセルフコピーを8枚も描いています。

 

ところでジェーンは本当にロセッティを愛していたんでしょうか?

ウィリアム・モリスの親友バーン=ジョーンズがロセッティとジェーンの関係について興味深いものを描いています。それがこれ

バーン=ジョーンズの素描 from wikimediacommons



肥満体のハゲおやじが女性のためにいつでも用意できるようにクッションを持っています。

どうみてもジェーンがロセッティを手の上で転がしている!

これでもまだロセッティはジェーンは可哀想と言って、勝手に酒と薬をガンガンあおってついには脳軟化症と尿毒症で亡くなります。

 

ジェーンはロセッティ死後、次の年には新恋人の詩人ウィルフリッド・スカーウェン・ブラントと付き合いだしてます。もうこうなってくるとロセッティも可哀想になってきちゃいます。

 

ところで、一番可哀想なのは誰?

奥さんと憧れの先輩が不倫してそれ知っててじっとしてるウィリアム・モリスじゃないだろうか?

実はウィリアム・モリスはラファエル前派の考えをベースにアーツ・アンド・クラフト運動を起こして後世への影響が一番強い偉大な人です。



3回に渡りロセッティをだいぶディスってしまいましたが、性格と作品は別です。筆者もロセッティ作品は昔から大好きです。

(なんだか昨今の浮気した俳優さんの話みたいですが。。。)

是非とも素晴らしい芸術に今後も触れていただけたら幸いです。



次回はもう少しライトなウィリアム・モリスの話。